
さて先日、自宅で反物を水通し加工したよー(記事)という話を書いたんですけども。
仕立て前の反物加工って、「水通し」の他に「湯通し」ってのもありましてね…
今お仕事している新之助上布も麻素材なので基本仕立てる前には地入れ加工しているのでありまするが
これが「湯通し」のためお客さんに「湯通しって、水通しのことですか?」と聞かれることもしばしば。
う〜ん、似たような加工なんだけど、でも全く一緒です!とは言えないなーと思っているんだけど、分かりづらいよね。。
仕立て屋さんからの話とか機織りの現場での知識とか、自分が生地を湯通し加工に出したり、
自宅で水通ししたりしての知見…などなどから自分の知ってる水通しと湯通しの違いをまとめてみたいなと思うよ。
丈夫な洋服地の木綿は汚れがひどいと洗濯板でがっしがし洗っちゃうことも。
そもそも、木綿や麻といった太物反物の反物加工は何のために行うのか?っていう話から。
こういった普段着の着物は、自分で洗濯をしながら着るのが基本。洗濯時には水をくぐることになるんですな。
木綿や麻といった生地って、織りあがった生地を水に通すと縮む性質があるので、あらかじめ縮ませることなく
仕立ててしまうと洗濯したら縮んだ!とか、縫い目がよれた…などのトラブルが起きる可能性があるんです(涙)
…と、着る側視点での必要性は「加工により生地のコンディションを洗濯可能な状態へ持っていく」なんだけど
作る側視点で「加工」を見ると、「製品を洗濯できるようにするため」だけではなかったりするのかなーっと。
織物って、タテ糸にヨコ糸を織り込んで作るものなんだけど、組織や素材の違いはあれ、ある程度糸をぐっと
引っ張った状態で作業する必要がある…ハズ。(麻の平織りしか知見が無いのだけど)
生地になってしまえば丈夫になる素材でも、織る段階では細い一本の糸。なので織りに耐えうるだけの丈夫さを
もたせるためにも(風合いや丈夫さなど他にも色んな目的はあるよ)
撚りをかけたり複数の糸を撚り合わせたり…と様々な加工が施されることになるんですが…
その一つが糸の糊で、糊で糸をコーティングすることで、切れづらくなり織りやすくなるんですな。
(毛羽が抑えられるなどの効果もあったり)糸自体を引っ張って織っていることもあり、
織りあがったそのままの生地というのはパンと張っていたり、糊でパリッとしていたりと
その生地で本来表現したい風合いではないことがほとんどではないかと。。
そんな時に使うのも加工で、糊を落としたり生地の余分なテンションを取り除くことで、その生地本来の
風合いを持たせた状態で売り場に並べることが出来るんですねっ
さらに織った生地を表現したい風合いへ変えていくための加工もありますぞ。白い生地を好きな色に染める、
というのもある意味「狙った風合いへ仕上げる加工」なのかもね。
で、「湯通し」って本来こちらの「生地の風合いをコントロールする加工」という側面が強いんじゃないかと…
紬なんかを湯通し加工したりするのは、紬を家で洗いたいんじゃなくて、余分な糊を抜いてふんわりとした
風合いへ仕上げるためなんじゃないかと思うわけなのです。
新之助上布の麻みたいに湯通し加工で生地の縮み止めを兼ねられる場合もあるけど(とはいえ麻の扱いに慣れた
加工屋さんでお願いしているからこその大丈夫なので、すべての麻=どこの湯通し加工でOK、とは言えなさそう)
湯通しで生地が自宅洗濯できるようになるかどうかは加工屋さんで「縮ませてくれる度合い」や
生地そのものの縮もうとする力に寄りけり、なのかも。
地入れして仕立てていただいたはずが洗ったら縮んじゃった会津木綿さん。
これも湯通し加工だったのではないかしら。。
麻は伸縮性の低い素材なので最初にぐっと縮めば後から縮んでくることは少ない。
だから湯通しで用が足りているのかなーと思うけど、木綿は伸縮性のある素材なので、
しっかりじっくり縮ませてあげないと足りないのかもしれないなあという印象ですわん。
対して「水通し」は湯にくぐらせて糊を取る湯通しとは違って、水につけてしまうからより自宅での
お洗濯に近い状況に出来ちゃう。「素材を水洗いできる状態にする」ためにはバッチリの加工なんじゃないかなっ。
木綿のように伸縮性のある素材にはやはり水通しが向くんだろうなと思うよ…。
ただ、こういった縮ませ目的の水通し加工を請け負う加工業者さんは少ないようで、今仕事場でお願いしている
仕立て屋さんも木綿反物は水通ししてから持ってきて欲しいな、スタイル。
もともとこういった普段着の反物は家で縫うもので、当然水通しも家でするもの…だったのかもしれないね。
木綿をたくさん販売している着物屋さんが自社で水通しされてたりするのは、受けてくれる加工先が無いからなのだろうし
それは水通しが太物を自宅で仕立てなくなって需要が生まれた後発の加工だからだったり……するのかしら!?
そんなわけで、ワタクシめの個人的見解はこんな感じ。
・洗濯できるように生地を縮ませるのは基本「水通し」、場合によって「湯通し」でも代替できる場合がある
・生地出荷前の加工は生地の風合い調整の意味合いが強いと思うので、加工済みの生地が即洗濯可能とは限らなさそう
・「縮ませ目的の加工(=水通し)」が出来る加工屋さんは少ない印象
いやいやもっと別の違いがありますぜ!という知識をお持ちの方がおられたら教えて欲しいな…!
水通し&湯通しとうまくお付き合いしながら着物が作れると良いですねっ
ちなみに湯通しに似た加工に「湯のし」というものがあって、こちらは生地に蒸気をあてるもの。
生地目を整えるのが主目的だそうで、糊が落ちなくもない…という話(by仕立て屋さん)なんだけど
絹ものはともかく木綿などの太物素材に縮み止めメイン目的で使うのは要注意かなと!
かや生地のふきん好き(でも自分で買うのはちょっと贅沢品)なんだけど
最初はびっくりするくらい糊が付いていてパリパリ。水じゃ糊がなかなか落ちなくて、お湯で洗うと
糊が落ちてふかふかに〜〜。極細の糸だから糊をシッカリつけないと織れないのかな。
生地って色々だな…と思うのであります。